『クリティカル・ビジネス・パラダイム』 山口 周 著

『技』 - スキルを磨く
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今日は、山口 周さんの、『クリティカル・ビジネス・パラダイム』 社会運動とビジネスの交わるところ をご紹介します。

『クリティカル・ビジネス』という言葉自体が聞きなれませんが、端的には、以下の考え方。

WHAT=クリティカル・ビジネス・パラダイムとは何か?

答え:社会運動・社会批評としての側面を持つビジネスのこと

WHY=なぜクリティカル・ビジネス・パラダイムが求められているのか?

答え:従来のアファーマティブ・ビジネス・パラダイムでは競争優位も持続可能性も保てないから

HOW=どのようにクリティカル・ビジネス・パラダイムを実践できるのか?

答え:哲学的・批判的な考察によって新たなアジェンダを生成し、アジェンダに共感して集まったアクティヴィストと協働することで

哲学的思考をお持ちの山口さんらしい、現代のビジネスに対する独自の視点です。

そもそも、アファーマティブなビジネスとは、

投資家、顧客、取引先、従業員などのステークホルダーの既存の価値観や欲望を肯定的に受け入れ、彼らの利得を最大化させることを通じて自己の企業価値の最大化を目指すビジネス・パラダイム

あらゆるステークホルダーとのWin-Win、三方よし、四方よし、で最適化するビジネスモデルのこと。一方で、クリティカル・ビジネス・パラダイムは、

クリティカル・ビジネス・パラダイムにおいて、企業の活動は社会運動・社会批評としての側面を強く持つことになります。クリティカル・ビジネスの実践者は、社会で見過ごされている不正義や不均衡を批判し、改善するための行動を起こすことによって価値を創造します。

またクリティカル・ビジネスのパラダイムにおいては、顧客をはじめとしたステークホルダーの位置づけや役割もまた、従来のパラダイムとは大きく異なることになります。クリティカル・ビジネスのパラダイムにおいては、顧客は欲求を満たす対象ではなく、むしろ批判・啓蒙の対象となり、ステークホルダーは経済取引の対象ではなく、社会運動を一緒に担うアクティヴィストという位置づけになります。

と、社会運動、イデオロギーをも感じさせる、非常に硬派なアプローチです。

クリティカル・ビジネスのイニシアチブは、必ず新しい問題を提起しますが、この問題は、観察を通じて新たに発見されるようなものではなく、多くの人が当たり前だと思って受け入れていた事象が、批判的に考察され、現状とは異なる「あるべき姿」が提示されることで、はじめて生成されるのです。

従来のソーシャル・ビジネスが、既にコンセンサスのとれたアジェンダに取り組むのとは対照的に、クリティカル・ビジネスでは、運動を開始する時点では必ずしも多数派のコンセンサスをとれていないアジェンダについて取り組む、というのが大きな違いです。

非常に自発的、しかもきわめて強い思い、信念が出発点となる。

それらを代表する企業として、テスラ、グーグル、パタゴニア、アップル、Airbnbを挙げています。これらの企業の特徴として、

これらの企業が抱えるビジョンやパーパスが非常に独善的で、「顧客」や「市場」という概念に全く触れていない、ということです。

これらの企業が短期間に非常な成長を遂げた理由は一つしかありません。それは、「市場に存在しない大きな問題を、企業の側から生成することに成功したから」です。一般的に、マーケティングやデザイン思考では「市場に存在する問題を見つける」ことがプランニングの初期段階で重視されますが、これらの企業は「新たな問題を発見」したのではなく「新たな問題を生成」したのです。

しかし、ではどのようにして、彼らは市場に新たな問題を生成したのでしょうか。答えは「あたかも哲学者やアーティストのように、社会を批判的=クリティカルに眺め、考えることによって」です。彼らはそれまで誰もが「当たり前だろう」「まあ仕方ないよね」の一言で済ましてきた様々な社会の事象や習慣や常識を批判的に考察し、現状の延長戦とは異なる別の社会の在り方を提示することで、市場に新たな問題を生成したのです。

            

山口さんが一貫して主張しているように、VUCA時代で、かつ物質的な飽和してきている現代においては、「問題」の設定自体が求められる能力であり、そのためには、「あるべき姿」「あるべき社会」「あるべき個人」のビッグ・ピクチャーなくして、現状とのギャップ=問題の設定、とはなりえない。今後成長していく組織、個人は、社会のあるべき姿を強烈にイメージし、そこに果敢に行動を起こすことができる人材、組織が、結果として資本を享受する、とのこと。

では、そのようなアクティビストとなるために、どんな行動を行う必要があるのか?10個のポイントを指摘しています。

  1. 多動する
    • クリティカル・ビジネスのアクティヴィストたちがイニシアチブを立ち上げるきっかけとなった経験は偶然によってもたらされるということ、そしてさらに指摘すれば、そのような偶然の多くの場合「旅」によってもたらされているということです。慣れ親しんだ日常から離れて、世界を自らにとって新たなもの、奇異なものとしてあらためて眺めるためのきっかけになるのが「旅」です。
  2. 衝動に根差す
    • 彼らは常に、「最も心を動かされるもの」を優先度の高いアジェンダとして取り組みます。
    • 彼らの掲げているアジェンダは、必ず彼らの実存と根っこでつながっている、ということです。
  3. 難しいアジェンダを掲げる
    • 難しいアジェンダであればあるほど、社会から共感を集めやすい
  4. グローバル視点を持つ
    • クリティカル・ビジネスのアクティヴィストは、イニシアチブを起ち上げる初期段階から、着手はローカルで地に足をつけて行いながらも、長期的にグローバルに事業を展開させることを視野に入れています。
    • クリティカル・ビジネスの実践においては、市場開拓の方向性を「ローカル・メジャー」の方向から「グローバル・ニッチ」に転換する必要がある、ということです。
  5. 手元にあるもので始める
    • クリティカル・ビジネスのイニシアチブを起ち上げるにあたって、それまでの本職を辞めずになかば副業といっていい位置づけで始めています。
    • 「とにかく早く、小さく試してみる」
    • クリティカル・ビジネスのアクティヴィストは「手元にあるものからまず始める」ことで、市場や社会からのフィードバックを早期に取得することができます。
  6. 敵をレバレッジする
    • 一般に私たちは、敵を作ることをなるべく避けようとしますが、彼らはむしろ逆に、意識的に敵を作り出し、その敵の持っているエネルギーを反作用のように利用しているのです。
  7. 同志を集める
    • ここでいう「同志」とは、文字通り「志を同じくするもの」ということです。
  8. システムで考える
    • 社会運動・社会批判という側面を持つビジネス、クリティカル・ビジネスを実践するにあたって、そのアクティヴィストには「問題をシステムとして捉える」、いわゆるシステム思考の素養が必要になります。
  9. 粘り強く、そして潔く
    • 基盤となるアジェンダや骨太な方針は守りながらも、方法論やアプローチに関してはあきらめるものはさっさとあきらめ、変えるべきものはさっさと変えているのです。
    • なぜ「潔く」がここで重要なのでしょうか?スジの悪いアプローチにこだわっていると、イニシアチブ起ち上げ当初において非常に重要な「時間」という資本を食ってしまうからです。
  10. 細部と言行を一致させる

きっと、個人の生き方としても、組織に属して働いているのであれば、このような考え方が必要になってくるのでしょうか。

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