前回は、『ハゲタカ』を通じ、小説からもビジネスに必要な心構えや姿勢が学べることをご紹介しました。
今回も自分と違う世界について書かれた小説をご紹介します。
濱 嘉之さん著作の『警視庁情報官 — シークレット・オフィサー』です。
本作は、公安警察をテーマにした小説で、「警視庁情報官シリーズ」の第1作目です。警視庁が秘密裏に組織した情報捜査のプロ集団「警視庁情報室」を舞台に、エース情報官・黒田が怪文書の謎を追いながら、政・官・財界、さらには世界的な宗教団体が絡む一大犯罪の疑惑に迫るストーリーです。
著者が公安部出身のため、公安部で行われている情報収集や分析、警察内部の権力構造、さらに国内外の政治、経済、犯罪組織に関する、ふだんあまり触れることのない世界を疑似体験することができ、新鮮な視点で読むことが出来ます。
私がかかわる領域では関係がないといえばそれまでなのですが、私なりに学びとなると感じた部分について、いくつかご紹介します。
「黒ちゃん、情報ってのは結局『人』なんだよ。論語を読んだことがあるかい。『学びて時にこれを習う、また悦ばしからずや。朋あり遠方より来る、また楽しからずや。人知らずして憤らず、また君子ならずや』だよ。今のうちにきっちり読んで常に心に刻んでおきなよ。」
ここでも情報は「ヒト」に関わるところが大きいのだと。
そして、世界の国防も情報戦なのですが、それについて、こんなことが書かれています。あまり関係ないのですが、単純に知識として、そうなんだと思ったことです。
「感情に流されず冷静に情報を収集し分析できる機関は、モサドと中華人民共和国国家安全部くらいのものだ。両者のエージェントはそれぞれ異なる背景ではあるが、自国民の歴史的汎用性から、ほとんどの国、組織に普通の姿で潜入する技と手法を身に着けているし、民族の意識としてこれを支える体制が出来上がっている。そして愛国心の質が他国と全く異なっている。日本国のような、八百万の神プラスアルファで、すべてを受け容れることができる宗教観とは大きく異なっている。」「そうした体制の下、両者はいずれもイリーガルを当然と考える諜報活動を日常的に行っている。薬も女も殺しも、必要とあれば臨機応変に相手の地位の上下も問わず平気で仕向けるトレーニングがなされている。したがって、彼らはターゲットとする相手の弱点や性癖などを徹底的に調べ上げ、これに応じた独自の武器を用意する。政治家や官僚、国際的な企業のトップがころりと掌で転がされてしまうのだ。日本でも首相経験者がこれに引っかかって晩節をけがしたことは記憶に新しい。」「日本は安全面においては、世界に誇る体制が整っていると自認していた。しかし、日本が様々な分野で世界のトップクラスにありながら、外交分野では全く世界をリードできない点を憂慮していた。その要因として、国民の精神面における原点が、宗教や一定の主義に基づかないため、「正義」というものが定義されていないからだと考えた。」
よるべき原理、根底に持つ主義主張があれば、自分をどんな人格にでもしたてあげて情報を吸い上げると。こわい反面、それくらいの意気込みがなければ、生きた情報収集はできないのだということかと思います。そして、国家としても、そのような基礎があると思っていた方が良いのかなと考えています。
生き馬の目を抜く戦いの中では、素直な目で事象を観察し、それを様々な角度から分析して昇華し、インサイトを導き出す。これは前回の『ハゲタカ』からも得た学びでした。
情報。。。どのソースから、どんな情報を得て、それをどう料理するか。
AIは主に公開された情報が入手源となりますので、そこにはでてこない情報を、どこの誰から、どのように引き出すか。これは生の人間にしかできない技として、今後さらに磨かなくてはいけない技、ひいてはリーダーとしては必須のスキルとなるのかもしれません。
そして、それは「ヒト」にかかわることでしか、なしえないのかもしれません。