今日ご紹介するのは、山口 揚平さんによる、『3つの世界 で賢く生き抜くための生存戦略』 です。
現代の社会構造を、独自の視点でまとめられており、大変参考になる著書です。社会学、哲学的な要素も含まれた考察で、重厚な内容です。いくつかの引用を通して、新鮮な視点をご紹介します。
1つ1つの問題を単体で眺めていても答えはわからない。世界は単一な在り方から、急速に、複雑に分化している。その最も大きな変化が、本書で扱う3つの世界への分化である。
具体的には、お金によって突き動かされる「キャピタリズム」(資本主義社会)、世界中を覆うネットワーク上をデータが駆け巡って構築された「ヴァ―チャリズム」(仮想現実社会)、土地に根差して自然のリズムで人々が協力して生活する「シェアリズム」(共和主義社会)である。
現代の社会構造が、3つの異なる空間によって構成されてきていることを論じます。その上で、そこで社会取引単位となる通貨が異なると観察しています。
今後の世界で賢く生きていくためには、これらの3つの世界で“お金”とされるものがいずれも必要になる。ポイントは、3つの財布に入っている価値は、一つ一つの財布を行き来することがなかなかできないことだ。これから私たちは、それぞれが「3つの財布」を持たなければならないのである。なぜなら、各々の世界でお金そのものが異なるからである。
キャピタリズムにおけるお金は通貨であり、労働あるいは資本投下によって得られるものだ。対して、ヴァ―チャリズムにおけるお金は信用、評判、影響力によってもたらされる。部分的に似ている部分もあるが、シェアリズムでは、心地よい距離感を担保できている評判、コミュニケーションの対価としての返礼がある。ここにおいては、時間と貢献を積み重ねることが重要となる。
キャピタリズムの世界は、我々がよく知る工業化社会での要素が多いので、これから拡大するであろうヴァ―チャリズムとは何か、筆者の考察をいくつか引用します。
ヴァ―チャリズムの目的は、「人間の個性と創造性を拡張すること」にあると考えている
ヴァ―チャリズムとは、現実社会に役立つ仕組みをネット上で実現させるこれまでのITの取組みではない。新たな理想「社会」そのものをデジタル空間に成立させようという試みのことである。社会に必要な民主制度・市場・法的枠組み、そして人権を含む社会福祉環境などをこれまで機能として使っていたネット空間に構築するムーブメントのことである。
ヴァ―チャリズムにおいては、アテンションエコノミー、つまり人々の注目・認知・信用を集めたものに資源が集結する。それは油田や鉄鋼のような物量が伴わず、あこがれや共感といった人間心理から発生するものである。
では、そのヴァ―チャリズムの空間では、どんな能力を必要とするのか。
ヴァ―チャリズムの価値の本質を支えるのは、想像力・構想力・構築力・人を惹きつける個性である。こういったものは、資本投下によって得られるものではない。人々の求める世界観を描く力と、実際に構築する知識と、アイデアと、構想に人を巻き込む力は依然として必要である。
ヴァ―チャル空間の解像度が高まるにつれて、触覚や視覚を含む様々な感覚がよりリアルになってゆく。どこまでいってもリアルとヴァーチャルの差を埋めるのは我々の想像力である。そのため、想像力の豊かな子どもたちや、偏見や固定観念を持たない人間ほど、未熟なこの世界を認知して楽しみやすい。
人間を人間たらしめるのは、「個性」と「創造性」に他ならない。だから好奇心がより一層必要になる。実は、「個性」と「創造性」はヴァ―チャリズムを生き抜く最大の鍵となる
個性に立脚した生き方を自分で設計することに注力することだ。みんなが世界を舞台にしたライフアーティストにならなければいけない。
子ども(に限らず)の個性(天才性)を綿密に見極め、その最先端への最短距離をサポートするのが親や周りの役目だ。
親がやるべきは、子供の個性の精緻な観察であり、その天性に準じた環境の設定である。
では、シェアリズムの世界とは、どのような世界なのか。
シェアリズムの世界では、人間的なつながりや土地の記憶、文脈を資本(数字)で分断しないことを重視するため、そもそも資本や貨幣を使わず、贈与やツケ(記帳)、時間や独自通貨などの新しい経済システムが中心となる。
シェアリズムのいいところはもちろん、身体にとって良いこと、人間関係が都会に比べて濃密であるところ、そしてお金を使わない暮らしである。・・・シェアリズムの暮らしをよくするためには、地域の人々と少しずつ関係性を深めたり、ささやかな貢献活動をしたり、地産地消によって安全で美味しい食生活を送ることである。
では、これから我々が大切にしていかなくてはいけない能力とは、何なのか?
「生きる上で重要な5つの要素」
- 社会性 仕事やお金など社会と共存してゆく力
- 関係性 親しい友人や家族、パートナーとの関係
- 身体性 心身の健康・エネルギー
- 創造性 想像(イメージ)を創造(現象化)する力
- 個性(天才性) 個人の固有の在り方(才能・性格・天性)
経験や知識、ましてや学歴よりも真に育むべきは、洞察力と好奇心を元にした主体性の方である。
大事なのは、世界がどうできているのかということは絶対的なものではなく、個々人の知覚と認知で決まるものだということである。世界は知覚と認知が決めている。自然に浸り、人工美を見つめ、知覚の解像度を上げよ。あらゆる知覚を愛し、視野を広げて世界の捉え方を変えよ。知覚の解像度と視野の広さは認知を深める。その認知は私たちを本質へと誘う。やがて記憶と五感に閉ざされた曖昧な自分という殻は溶け去り、純粋に世界を認知する私たちの本性があらわれる。
「見えない世界を解像度高くイメージして、自分の中でその世界観を描き切ること」 そうすると、今自分に何が必要なのか、が見えてくるかもしれません。そして、それはビジネスの世界に限らず、自分の人生、ライフとして、必要とされてくる視点なのかもしれない、とこの書籍から改めて知覚しました。