『クリティカル・ビジネス・パラダイム』 山口 周 著

『技』 - スキルを磨く
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2025年、明けましておめでとうございます。今年は、このブログをまずは継続すること、少しでも学びのあるコンテンツに進化させていくこと、を目指してまいります。どうぞよろしくお願い致します。

新年最初にご紹介するのは、再び、山口周さんの『クリティカル・ビジネス・パラダイム』 社会運動とビジネスの交わるところ です。

NEWTYPEの時代でご紹介したように、これからは問題を定義できる人、構想力にはリベラルアーツが必要だと主張されていました。この書籍では、最近大きく成長している企業が、従来の論理構造にて動いているのではない点を、論考しています。山口さんらしいユニークな視点をいくつかご紹介します。

まずは、「クリティカル:ビジネス」とは、何か。

WHAT=クリティカル・ビジネス・パラダイムとは何か?

答え:社会運動・社会批評としての側面を持つビジネスのこと

WHY=なぜクリティカル・ビジネス・パラダイムが求められているのか?

答え:従来のアファーマティブ・ビジネス・パラダイムでは競争優位も持続可能性も保てないから

HOW=どのようにクリティカル・ビジネス・パラダイムを実践できるのか?

答え:哲学的・批判的な考察によって新たなアジェンダを生成し、アジェンダに共感して集まったアクティヴィストと協働することで

クリティカル・ビジネス・パラダイムを実践している企業として、テスラ、グーグル、パタゴニア、アップル、Airbnbを挙げています。

これらの企業が抱えるビジョンやパーパスが非常に独善的で、「顧客」や「市場」という概念に全く触れていない、ということです。

これらの企業が短期間に非常な成長を遂げた理由は一つしかありません。それは、市場に存在しない大きな問題を、企業の側から生成することに成功したから」です。一般的に、マーケティングやデザイン思考では「市場に存在する問題を見つける」ことがプランニングの初期段階で重視されますが、これらの企業は「新たな問題を発見」したのではなく「新たな問題を生成」したのです。

しかし、ではどのようにして、彼らは市場に新たな問題を生成したのでしょうか。答えは「あたかも哲学者やアーティストのように、社会を批判的=クリティカルに眺め、考えることによって」です。彼らはそれまで誰もが「当たり前だろう」「まあ仕方ないよね」の一言で済ましてきた様々な社会の事象や習慣や常識を批判的に考察し、現状の延長戦とは異なる別の社会の在り方を提示することで、市場に新たな問題を生成したのです。

この辺の主張は、Massive Transformation Purpose (MTP)を解像度高くイメージすることが重要であると説いた堀田さんの考え方と相通じるところがあり、それがイメージできるからこそ、”社会の違和感”をセンスする目が養われるのではないでしょうか。

ビジネスにおける古典的なパラダイム・・・・つまり、顧客の既存の価値観にフィットする便益を競合企業よりも効率的に提供することで売上・利益の極大化を図るというパラダイムが転換する先にある、新しいパラダイムとは何なのでしょうか?それが、本書で提示する「クリティカル・ビジネス・パラダイム」ということになります。クリティカル・ビジネス・パラダイムにおいて、企業の活動は社会運動・社会批評としての側面を強く持つことになります。クリティカル・ビジネスの実践者は、社会で見過ごされている不正義や不均衡を批判し、改善するための行動を起こすことによって価値を創造します。

またクリティカル・ビジネスのパラダイムにおいては、顧客をはじめとしたステークホルダーの位置づけや役割もまた、従来のパラダイムとは大きく異なることになります。クリティカル・ビジネスのパラダイムにおいては、顧客は欲求を満たす対象ではなく、むしろ批判・啓蒙の対象となり、ステークホルダーは経済取引の対象ではなく、社会運動を一緒に担うアクティヴィストという位置づけになります。

すべては、「自分軸」「自分が何をやりたいか」・・・内なる声から出発し、それを体現していると。まとめると、

クリティカル・ビジネス・パラダイム投資家、顧客、取引先、従業員などのステークホルダーの価値観を批判的に考察し、これまでとは異なるオルタナティブを提案することを通じて社会に価値観のアップデートを起こすことを目指すビジネス・パラダイム

そして、これまでの社会的ビジネスとの違いについて。

従来のソーシャル・ビジネスが、既にコンセンサスのとれたアジェンダに取り組むのとは対照的に、クリティカル・ビジネスでは、運動を開始する時点では必ずしも多数派のコンセンサスをとれていないアジェンダについて取り組む、というのが大きな違いです。

クリティカル・ビジネスのイニシアチブは、必ず新しい問題を提起しますが、この問題は、観察を通じて新たに発見されるようなものではなく、多くの人が当たり前だと思って受け入れていた事象が、批判的に考察され、現状とは異なる「あるべき姿」が提示されることで、はじめて生成されるのです。

そして、「アクティビスト」たるために、どんな心持ちが必要か、10点について記しています。多いですが、紹介します。

アクティヴィストのための10の弾丸

多動する

      クリティカル・ビジネスのアクティヴィストたちがイニシアチブを立ち上げるきっかけとなった経験は偶然によってもたらされるということ、そしてさらに指摘すれば、そのような偶然の多くの場合「旅」によってもたらされているということです。慣れ親しんだ日常から離れて、世界を自らにとって新たなもの、奇異なものとしてあらためて眺めるためのきっかけになるのが「旅」です。

      衝動に根差す

        彼らは常に、「最も心を動かされるもの」を優先度の高いアジェンダとして取り組みます。彼らの掲げているアジェンダは、必ず彼らの実存と根っこでつながっている、ということです。

        難しいアジェンダを掲げる

        難しいアジェンダほどよい共感の獲得、認知の促進、モチベーションの向上。難しいアジェンダであればあるほど、社会から共感を集めやすい

        グローバル視点を持つ

        クリティカル・ビジネスのアクティヴィストは、イニシアチブを起ち上げる初期段階から、着手はローカルで地に足をつけて行いながらも、長期的にグローバルに事業を展開させることを視野に入れています。

        手元にあるもので始める

        クリティカル・ビジネスのイニシアチブを起ち上げるにあたって、それまでの本職を辞めずになかば副業といっていい位置づけで始めています。

        「とにかく早く、小さく試してみる」。クリティカル・ビジネスのアクティヴィストは「手元にあるものからまず始める」ことで、市場や社会からのフィードバックを早期に取得することができます。

        敵をレバレッジする

        一般に私たちは、敵を作ることをなるべく避けようとしますが、彼らはむしろ逆に、意識的に敵を作り出し、その敵の持っているエネルギーを反作用のように利用しているのです。

        同志を集める

        ここでいう「同志」とは、文字通り「志を同じくするもの」ということです。

        システムで考える

        社会運動・社会批判という側面を持つビジネス、クリティカル・ビジネスを実践するにあたって、そのアクティヴィストには「問題をシステムとして捉える」、いわゆるシステム思考の素養が必要になります。

        粘り強く、そして潔く

        基盤となるアジェンダや骨太な方針は守りながらも、方法論やアプローチに関してはあきらめるものはさっさとあきらめ、変えるべきものはさっさと変えているのです。

        なぜ「潔く」がここで重要なのでしょうか?スジの悪いアプローチにこだわっていると、イニシアチブ起ち上げ当初において非常に重要な「時間」という資本を食ってしまうからです。

            細部と言行を一致させる

            最後に、キャリアにおいてのクリティカル・ビジネスへのかかわり方について、最後に紹介します。

            商品やサービスの購入からさらに踏み込んで、共感するアジェンダを掲げるクリティカル・ビジネスのイニシアチブに出会ったら、できる範囲で関与してみましょう。別に本業を投げ捨ててフルコミットする必要はありません。

            個人もまた、複数のキャリアを同時並行で歩むことで、リスクとリターンのバランスを最適化できるようになるのです。特に今後、増加するであろうと思われるのが、多少は退屈であっても、安定的に収入が得られる仕事を本業としてやりながら、強く共感できるクリティカル・ビジネスのイニシアチブにも何らかの形で関与する、という働き方です。

            自身の考え方に基づいて、働き方も複線化していく。柔軟に、でも自身の強い思いに基づいて。自ら考えて、自身の働き方の参考にしたいと思います。

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